「子どもの言葉が出ない」 前編
国立成育医療研究センター 小児科医 永井 章 先生

2026/2/5 公開

国立研究開発法人 国立成育医療研究センターの永井先生に
「子どもの言葉が出ない」を中心にお話を聞いていきたいと思います。

前編では、永井先生のご経歴や紹介、言葉が出ないに関する基本情報などを紹介します。


永井 章 先生 プロフィール

永井 章(ながい あきら)先生

国立成育医療研究センター総合診療部 診療部長

小児科医


1989年 大阪医科大学 医学部卒業

専門分野

  • 小児科一般
  • 小児心身症(子どもの心と身体の問題を総合的に診る領域)

資格

  • 医学博士
  • 日本小児科学会専門医・指導医
  • 日本小児心身医学認定医・指導医
  • 日本心身医学会専門医
  • 子どものこころ専門医

目次

※【後編】がついている項目は、後編記事を遷移します。


永井先生のご専門とご経歴

先生のご専門分野と、これまでにどのようなお子さんの診療に携わってこられたか教えてください。

成育医療研究センターの総合診療科で約20年勤務しています。

主に外来診療を担当し、乳幼児の発育発達の問題(言葉の遅れ、運動発達の遅れなど)や体重増加不良、心身症の問題などを中心とした診療に携わってきました。


総合診療科の診療の中で、特に乳幼児健診の二次健診として相談を受けるような内容で紹介をいただくことも多く、
発達障害の方の発達症の問題も含めて、こころと体の問題を広く診療しています。


小児科専門医の資格に加え、子どものこころ専門医の資格も持っていることもあり、
子どものこころと体の両面から広く診療を行って今日に至っています。


言葉の発達に関する相談に関わるようになった経緯や、この領域で大切にしている視点は何ですか?

外来に言葉の発達に関する相談が多いことがきっかけです。


大切にしているのは、保護者が安心感と自信を持って子どもに関わることができるよう支援することです。
発達の問題では、小さい子どもたちを伸ばすのは保護者の方であり、環境から大きな影響を受けるため、保護者がどのように子どもと関わるかが重要になります。
そうした視点から保護者の不安を軽減し、子どもの育ちに安心して関わってももらえるよう助言しています。


親御さんがやっていることに対してポジティブなフィードバックをし、「できるだけ話しかけているのはすごくいいですよ」といった形で保護者の関わりの努力を認めるようにしています。
また心配がない部分については「この子は大丈夫だよ」と伝えるようにしています。
ただし、子どもたちの発達は経過を見ないとわからない部分もあるため、現状としてできていることから「順調に行けばこうなるよ」という見通しを示すことで、大事だと考えています。

また、子どもの状態について可能な限りわかりやすく説明することで、親の安心感につなげています。
たとえば「なぜ言葉が出ないのか」について、その背景や理屈を可能な限りわかりやすく説明することが、保護者の安心感につながると考えています。
親御さんにとって何が原因なのかが曖昧だと不安になってしまうため、できるだけその不安を少なくするよう心がけています。


「子どもの言葉が出ない」と感じる家庭からの相談で、まず最初に確認したいことは何ですか?

まず「なぜそう思ったのか」というきっかけを聞きます。
他のお子さんと比べて遅いと感じたのか、周囲(おばあちゃんなど)から言われたのか、
ネットで調べて心配になったのかなど、心配になった理由を確認します。


保育園に通っているお子さんの場合は友達との比較が多く、
ネットの情報で「この時期にはお話ができているはず」という記載と比較して
心配になるケースもあります。


また、何を具体的に心配しているのか(聴力の問題、知的な問題、自閉症など)も聞きます。

言葉が出ない原因として主に考えられるのは、

①インプットの問題(難聴など)

②知的な問題(言葉そのものの理解の問題)

③コミュニケーションの問題(自閉症スペクトラム症 など)

の3つです。

親が何を心配しているかを理解し、それに対して適切に説明することが重要で、例えば自閉症スペクトラム症(ASD)を疑っている親御さんには、そのお子さんがASDは否定的あるとういうその見立てについての理由をしっかりと説明しないと不安が軽減されません。
心配の内容によって説明のポイントが変わってくるため、この確認は診療において非常に大切なステップです。


子どもの言語発達の理解

1〜3歳の子どもで見られる「言葉の発達の目安」を教えてください。(喃語、単語、二語文など、月齢ごとの目安)

言葉の発達には個人差がありますが、一般的な目安としては、1歳半で「ワンワン」などの有意語が数語出ることが期待されます。
1歳半健診はこの点をチェックする重要な機会で、言葉と話して歩くという人間らしくなってくるスタートラインに来ているかどうかを確認する大切なチェックポイントとなります。


2歳半頃には二語文(「パパ行く」「ワンワンいた」など)が出ることが期待されます。


統計的には1歳半で9割以上の子どもに言葉が出始め、2歳半で9割程度に二語文が出るとされています。
ただし、2歳半の段階では法的な健診がないため、この時期のチェックは見落とされがちです。


大まかな目安として、2歳で言葉がない、3歳で二語文がない場合は医療機関や療育の検討が必要かもしれません。
言葉の問題が最も顕在化しやすいのは1歳半から2歳頃で、この時期に言葉が出るか出ないかが明確に判断できるため、多くの相談がこの時期に集中します。


言葉が出ていない場合、問題があるかどうかの見分け方はありますか?

言葉の発達には前段階があります。

①共同注意(6-10ヶ月頃:親が注意を向け見ているものや、指さすものを一緒に見る)

②模倣(他者の表情、声、行動を真似する)

③指差し(自分の興味がある対象物を親に示す)

の3つのステップが重要です。


言葉は一つのものを違う人間が共有するコミュニケーションツールであるため、まず対象物を違う人と一緒に見る共同注意が絶対に必要です。
模倣は言葉を覚えるために他者の話していることを真似する能力であり、自分以外の人がやっていることに対する意欲も含まれます。
指差しは、自分の欲しいものを指したり、興味があるものを指したりという形で出始めていきます。
こうしたことが対象物を保護者と一致させ、本人の言葉の表出への土台となっていきます。


1歳半で言葉が出なくても、これらができていれば言葉の理解があり、対人関係に問題がないと判断できることが多いです。
また、「おいで」「ちょうだい」などの言葉の意味を理解しているか、名前を呼ばれたときに反応するかなども確認します。
ただし、言葉の理解については、親が無意識に身振り手振りを交えて話しかけていることが多いため、純粋に言葉だけで理解しているかどうかを見極めることが大切です。


これらの前段階ができているかどうかが、発達の見極めに重要です。
発達は段階的に進むものであり、手前のステップができていない場合は次のステップに進むことが困難になります。


後編では、家庭でできる観察のポイント、受診の目安と相談先、先生からのメッセージを紹介します。

詳細は下記からご覧ください。

〒157-8535 東京都世田谷区大蔵2丁目10−1
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

総合診療部 総合診療科 診療部長
永井 章 先生

インタビュー・作成
一般財団法人 日本患者支援財団 運営事務局