成育医療研究センター 小児科医
島袋林秀先生 インタビュー 「赤ちゃんがミルクを飲めない」 後編

国立研究開発法人 国立成育医療研究センターの島袋先生に
「赤ちゃんがミルクを飲めない」を中心にお話を聞いていきたいと思います。

後編では、家庭での観察ポイントと受診の目安、受信時の行動と情報共有、親御さんへのメッセージを紹介します。


島袋 林秀 先生 プロフィール

成育医療研究センター 総合診療部 総合診療科 診療部長

島袋 林秀(しまぶくろ りんしゅう)先生

1998年3月  産業大学 医学部医学科 卒業

1999年4月  医師免許取得

2010年4月 労働福祉事業団・横浜労災病院 新生児内科 副部長

2011年4月 東京医科歯科大学大学院 医歯理工保健学専攻 医療管理政策学MMAコース

2012年4月 聖路加国際病院 小児総合医療センター小児科 医幹

2014年4月 東京医科歯科大学大学院 医歯薬総合研究科 環境社会医歯学講座研究開発学

2015年4月 人間総合科学大学 保健医療学部 非常勤講師

2016年4月 聖路加国際大学大学院 看護学研究科(遺伝看護学) 臨床准教授

2020年4月 聖路加国際病院 小児総合医療センター小児科 副医長

2021年4月 国立成育医療研究センター 総合診療部総合診療科 診療部長

2021年4月  聖路加国際大学 大学院 臨床教授  


目次

家庭での観察ポイントと受診の目安

家庭で最初に注目してほしい「いつもの様子との違い」は何ですか?

次の点を日常と比べて観察してください。

  • 活気・機嫌
  • 泣き方の張りや持続
  • 抱いたときの体の緊張感
  • 顔色(蒼白など)や手足の冷たさ
  • 呼吸(速さ・胸の陥没など)
  • 発汗の様子


親御さんは最も長く赤ちゃんと過ごしています。
「なんとなく違う」という感覚を大切に。昨日まで元気に飲んでいたのに今日は違う。
その違和感は重要です。


「飲みたいのに飲めない」のか「飲む気力がない」のか、どう見分けますか?

飲みたいのに飲めない:乳首に向かう意欲はあるが、吸啜や嚥下が不十分/途中で疲れるなど、協調運動の問題が疑われます。

飲む気力がない:乳首に向かう意欲自体がありません。乳首をくわえても反応が鈍い、吸う力が弱い、全身的に元気がない、普段より反応が悪い。全身状態の低下が疑われます。


「なんとなく違う」を客観的に伝えるための観察ポイントは?

次のような点を日頃から把握しておくと役立ちます。

  • 排泄(おしっこ・うんち)の回数や性状
  • 体重の増え方
  • 機嫌・泣き方・睡眠(時間/入眠の様子)
  • 授乳時間がいつもより長い
  • 飲む途中で疲れる
  • 寝てばかり/いつもより不機嫌


厳密な数字管理までは不要ですが、「普段と違う」と感じるポイントを覚えておくと、受診時の大切な手掛かりになります。


家族みんなで赤ちゃんの変化に気づくため、何を共有すべきですか?

育児は一人で抱えないこと。

母親が気づいたことを父親や祖父母と共有し、園に通っていれば先生とも情報交換を。
授乳量や時間だけでなく、「今日は少し元気がない」「泣き方が弱い」など小さな違和感も言葉にして共有しましょう。


複数の目で「普段と違う」を確認できる関係が、早期の受診判断につながります。


受診時の行動と情報共有

「様子見」と「相談・受診」の目安は?

家族は子どもを“線”で継続的に見ており、微細な変化に敏感です。
「いつもと何か違う」という感覚が半日〜1日続くときは、相談・受診を検討ください。


夜間・休日でも重症感があれば救急外来へ。迷う場合は地域の小児救急電話相談 #8000 を活用してください。


親の感覚を大切にし、「何となく変」を否定しないこと。
結果的に異常がなくても「安心できた」で良いのです。


ミルクを飲まない以外に、迷わず受診すべき“危険サイン”は?

「飲めない」に加え、以下の全身症状があるときは早急な受診を検討してください。

  • 38.0℃以上の発熱(特に生後3か月未満で、環境調整をしても持続する)
  • 顔色不良・チアノーゼ(唇や顔が青い)
  • 呼吸困難(呼吸数増加、胸や腹の陥没呼吸)
  • けいれん
  • ぐったりしている、反応が鈍い/活気がない


受診のタイミングと医療機関の選び方は?

日中は、普段の状態をよく知るかかりつけ医へまず相談ください。

夜間・休日で重症感がある場合は救急外来/119番を検討ください。

断に迷えば #8000(小児救急電話相談)を活用しましょう。


受診時に医師へ伝えるべき情報は?

「いつから」「どのように変わったか」を具体的にお伝えください。

  • 泣き方
  • 寝方
  • 飲み方
  • 排泄
  • 体重の変化
  • 発熱
  • 呼吸苦

などの随伴症状などです。

母子健康手帳やおくすり手帳があると判断がよりスムーズです。



夜間や休日で緊急性の判断に迷うときの行動指針は?

次を確認しましょう。

1. 顔色(蒼白・チアノーゼ)

2. 呼吸(速い/陥没呼吸)

3. 反応性(呼びかけへの反応)

4. 排尿(半日以上おしっこが出ない


「おかしい」と感じたら #8000 に相談、危機的なら119番へ。
夜間でも「いつもと違う」が続くときは、ためらわず受診・相談を。
問題がなければ「安心できた」で大丈夫です。


地域で相談できる窓口の活用について

#8000(小児救急電話相談) は地域のコールセンターにつながり、対処法や受診先の助言が受けられます(対応時間は地域で異なります)。

自治体の子育て支援窓口、保健センター、地域の相談窓口も積極的に活用し、悩みを一人で抱え込まないでください。

親御さんへのメッセージ

赤ちゃんがミルクを飲まないと、とても不安になります。
けれど、それが必ずしも重大な病気を意味するわけではありません。
日々の小さな変化に気づき、迷ったら早めに相談してください。育児は一人で抱えるものではなく、家族や地域の医療・支援がともに支えます。

赤ちゃんの変化をいちばんよく知っているのは、毎日一緒に過ごす親御さんです。
その感覚はとても大切で、しばしば正確です。私たち医療者の役割は、病気かどうかを判断することであって、親の感覚を否定することではありません。

どうか自信を持って、安心して子育てを続けてください。


〒157-8535 東京都世田谷区大蔵2丁目10−1
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

総合診療部 総合診療科 診療部長
島袋 林秀 先生

インタビュー・作成
一般財団法人 日本患者支援財団 運営事務局