脂肪酸代謝異常症は、脂肪酸のβ酸化によって脂肪からエネルギーを作り出す過程に関わっている酵素などの遺伝的な異常により起こる病気の総称です。先天性代謝異常のひとつで、日本では新生児マススクリーニング検査の対象になっています。また、小児慢性特定疾病に指定されており、一部の疾患は指定難病にも指定されています。
そもそも脂肪酸とは、炭素、水素、酸素の3つの原子で構成され、これにさまざまな長さのカルボキシル基をくっつけた成分で、脂質の構成要素の一部です。炭素の数や炭素同士のつながり方などの違いによって「長鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」「短鎖脂肪酸」などのさまざまな種類があります。
これらの脂肪酸は、いずれも体の中でエネルギー源として使われます。私たちの体は食事をして生きていくために必要なエネルギーを産生しますが、絶食が続いたときに糖質やたんぱく質、脂肪を分解してエネルギーを作ろうとします。しかし、脂肪酸代謝異常の子どもは脂肪からエネルギーを作り出す過程に障害があるため、お腹が空いたときや運動したときにエネルギー不足になり、全身の各臓器に障害が生じてしまうのです。
代表的な脂肪酸代謝異常症は以下の通りです。
脂肪酸代謝異常症は空腹になってブドウ糖が足りなくなっても、エネルギー源の代わりになる脂肪酸を利用できません。そのために、ミルクや母乳の間隔が長くなる乳児期後半に症状が出て病院を受診するケースが増えます。
また乳児期に感染症や疲労の蓄積でいつもよりエネルギーが必要になっているのに、食欲が低下して十分に食事ができないと、低血糖とともにさまざまな症状が現れます。
脂肪酸代謝異常症の具体的な症状は以下です。
● 冷や汗
● 顔色蒼白
● けいれん
● 意識障害
● 筋力低下
● 筋痛
● 心不全による息苦しさ
など
状態が悪化すると、心臓がエネルギー不足に陥って急に心停止を起こし、突然死をきたすこともあるため、新生児マススクリーニング検査の対象疾患となっています。一方で、このような急性発症を防げれば、ほかにはほとんど症状がなく発育も良好です。急性発症するまでは見た目にも元気な子として成長し、診断が難しいため、新生児期の検査が大切なのです。
脂肪酸代謝異常症は急性発症で異変に気が付くことがほとんどです。けいれんや冷や汗などの低血糖の症状が見られたら、まずは尿中のケトン体の検査や血液検査を行います。血液検査では以下の状態になっていないかを確認します。
● 低血糖
● アシドーシス
● 高アンモニア血症
● 肝機能障害
● クレアチニンキナーゼ(CK)上昇
低血糖になっているにも関わらず、尿中ケトン体が陰性なのが特徴で、その場合は、血中のケトン体分画や遊離脂肪酸値も測定します。
新生児マススクリーニング検査は、生後すぐのわずかな採血で脂肪酸代謝異常症の有無を調べることが可能で、発症前に診断するために重要な検査です。
無症状の状態で診断し、発症前から低血糖への対策をして突然死を防ぐことが大切です。脂肪酸代謝異常症は年齢とともに、急性発症の危険は低下します。しかし、大人になっても筋痛などで発症する可能性はあります。病気の存在を知っておくことで対策が可能です。
脂肪酸代謝異常症の大事な心がけとして、「長時間空腹にさせない」ことが何よりも大切です。例えば新生児期では3時間以内、生後半年までは4時間以内、1歳までは6時間以内に食事をするように心がけます。
特に乳児期に、疾患によってはMCT(中鎖脂肪酸)を含んだ特殊なミルクを与えることもあります。医師の指示に従い調乳しましょう。
体調不良や食欲がない、嘔吐症状があるときはいつも以上にエネルギー源が必要になるため、早めに受診してブドウ糖の点滴を受けることが大切です。
急性発症してけいれんや意識障害があるときはすぐに入院治療が必要です。病状によっては、脳の障害を予防するために集中治療が必要です。けいれんや意識障害がみられるときはすぐに救急要請をしましょう。
脂肪酸代謝異常症は先天性代謝異常のひとつです。普段は特に大きな問題はないことから、新生児マススクリーニング検査で病気の有無を把握して、長時間空腹にならないように対策することが大切です。乳幼児、小児では突然死を引き起こすこともあります。この病気をお持ちの患者さんは、いつもと違って元気がないなどのちょっとした症状でも、すぐに医療機関を受診しましょう。
監修医:国立研究開発法人 国立成育医療センター 総合診療部 統括部長 窪田満 先生
参考文献
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https://www.ncchd.go.jp/scholar/research/section/screening/NBSinfo_FAD_NCCHD.pdf
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https://hidamari-tanpopo.main.jp/fatty-acid-oxidation.html