先天性甲状腺機能低下症とは、生まれつき甲状腺のはたらきが弱いために甲状腺ホルモンが不足してしまう病気です。日本での発症頻度は3,000〜5,000人に1人程度と推定されています。以前は「クレチン症」とも呼ばれていましたが、今はその呼称は用いません。
子どもの甲状腺機能低下症の中で、出生時にすでに甲状腺機能が低下しており、新生児マススクリーニング検査で発見されるものを「先天性甲状腺機能低下症」といいます。先天性甲状腺機能低下症の約10〜20%は遺伝により生じます。
先天性甲状腺機能低下症の子どもの予後は、新生児マススクリーニングで発見されるようになる前に比べるとかなり改善されており、治療はホルモン補充療法が基本です。日本では小児慢性特定疾病に指定されています。
甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶々のような形をしている臓器です。甲状腺の大きさは4〜5cm、重さは10〜20g程度で、私たちが生きていくために欠かせない「甲状腺ホルモン」を作っています。
甲状腺ホルモンの役割は、新陳代謝を活発にして、脈拍数や体温、自律神経を調節してエネルギー消費を一定に保つことです。甲状腺ホルモンは子どもの成長に欠かすことができません。
甲状腺ホルモンの量を調節している脳の下垂体や、甲状腺そのものに何らかの異常があると、循環器や消化器、眼、骨、手足など体のさまざまな部分に症状が現れます。
先天性甲状腺機能低下症は甲状腺そのものに原因があるものを「原発性」、下垂体や視床下部など脳のはたらきに原因があるものを「中枢性」と区別します。詳細な原因は次の通りです。
このほかにもまれにある原因として、甲状腺はあるものの甲状腺ホルモンの生産量が少ないこともあります。母親に甲状腺の疾患がある場合など、新生児が一時的に甲状腺機能低下症になることがあります。
先天性甲状腺機能低下症では無治療の場合、次のような症状がみられます。
● 元気がない
● 母乳やミルクを飲む量が少ない(哺乳不良)
● 体重が思うように増えない
● 皮膚が黄色くなる(黄疸)
● 筋肉の緊張の低下
● 便秘
● 手足がつめたい
● 泣き声がかすれる
● 心拍数の低下
● 泉門の拡大
● 臍ヘルニア など
日本ではほとんどないことですが、診断が遅れて治療の開始が遅くなると、知的障害や低身長など成長発達に遅れが見られる場合や、顔の腫れや舌の腫大などで特徴的な顔つきになる場合もあります。新生児マススクリーニングでの病気の早期発見が重要になる病気です。
先天性甲状腺機能低下症は新生児マススクリーニングの対象疾患です。新生児マススクリーニングは、赤ちゃんの先天性の病気をみつけるための検査です。
また必要に応じて次の検査をして詳しく調べていきます。
● 血液検査:血液中の電解質やホルモン値などを調べる
● レントゲン撮影:甲状腺ホルモンの不足による膝の骨の発育状況を確認する
● 超音波検査:正しい位置に甲状腺があるか、大きさは正常かを調べる
● 診察:ご家族に関するお話を伺ったり、脈拍を計測したり、甲状腺を触って確認したりします
このほかにも必要な項目があれば追加の精密検査を行い、診断のための情報収集を行います。特に母親が、甲状腺の病気を持っている、甲状腺のお薬を飲んでいる、ヨウ素の含有量が多い海藻類を過剰に摂取している、イソジンを過剰に使用している、胎児造影検査を頻繁に行っている場合は、新生児の甲状腺のはたらきに影響を与えることがあるため、こうした背景がないかを詳しく聞き取り、調査することが大切です。
新生児マススクリーニング検査が開始されてから、早期発見・早期治療が可能になり、予後は各段に良くなっています。
先天性甲状腺機能低下症の基本的な治療は、不足している甲状腺ホルモンの補充療法です。特に、生まれてから数か月以内の甲状腺ホルモンの不足は、知的発達に影響を及ぼすことが指摘されているため、発見後すぐに治療を開始することが重要です。
治療として、1日1回、「レボチロキシンナトリウム」と呼ばれる甲状腺ホルモン薬を内服します。投与量は血液検査により決定します。
先天性甲状腺機能低下症の治療を受けた新生児は、ほとんどの場合で成長発達に異常はみられず予後は良好です。しかし、軽微な発達の問題や難聴が起こることがありますので、定期的な検査が必要です。
先天性甲状腺ホルモン機能低下症は、何らかの原因で甲状腺ホルモンの量が不足する病気です。生まれてから数か月は特に甲状腺ホルモンのはたらきが重要になるため、早期発見と早期治療が欠かせません。日本では新生児マススクリーニングの対象疾患になっており、発見後は速やかに治療を開始します。
監修医:国立研究開発法人 国立成育医療センター 総合診療部 統括部長 窪田満 先生
参考文献
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