アミノ酸代謝異常症とは、アミノ酸の代謝に関わる酵素の異常が原因で、体の中に毒性物質が蓄積したり、必要なアミノ酸が欠乏したりすることで、脳や肝臓、腎臓などが障害される病気の総称です。日本では小児慢性特定疾病に指定されており、一部の疾患は指定難病にも指定されています。
代表的なアミノ酸代謝異常症は以下の通りです。
● フェニルケトン尿症
● メープルシロップ尿症
● ホモシスチン尿症
● チロシン血症
それぞれの病気の特徴や症状を解説します。
フェニルケトン尿症は、必須アミノ酸のフェニルアラニンをチロシンに変換する酵素の働きが生まれつき弱いために、体の中に「フェニルアラニン」が蓄積して、チロシンが少なくなる病気です。
フェニルケトン尿症は、新生児期にはほとんど症状がみられません。しかし、血液中のフェニルアラニンの値が高い状態が続くと、発達が遅れたり、色素欠乏症を引き起こしたりします。
また補酵素のBH4の欠乏症(悪性高フェニルアラニン血症)では、生まれてから早い段階でミルクや母乳の飲みが悪くなったり、難治性のけいれんなどの、より重い障害がみられます。
メープルシロップ尿症は、分岐鎖アミノ酸と呼ばれる「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」が分解される過程で働く酵素の異常です。これにより体内に有害な代謝物質が増えて、子どもでは以下のような症状が現れます。
● 元気がない(活気不良)
● 哺乳不良
● 嘔吐
● 発達の遅れ
特に重症例では出生後すぐにミルクや母乳の飲みが悪くなったり元気がなかったりする状態を見過ごすと、次第に昏睡状態になります。この急性症状が起こらないようにコントロールすることで、良好な発達につなげていきます。
ホモシスチン尿症は、アミノ酸の「メチオニン」の代謝産物であるホモシステインが血液の中に蓄積することで発症します。血液中のメチオニンやホモシステイン濃度が高い状態が続くと以下のような症状が現れます。
● 発達の遅れ
● 骨粗しょう症
● 目の水晶体の脱臼
● 若年発症の血栓症
● けいれん
● 高身長で手足が長くなる
新生児マススクリーニング検査で病気を発見して治療をすれば、知的発達や生命予後も良好です。思春期以降に血栓症を合併すると、命に関わることもあるため生涯を通じて治療の継続が必要です。
チロシン血症とは、アミノ酸の「チロシン」の代謝に必要な酵素の欠損により起こるアミノ酸代謝異常症です。チロシン血症は「高チロシン血症1型」「高チロシン血症2型」「高チロシン血症3型」の3つに分類されます。2型・3型の発症はまれです。
チロシン血症の代表的な症状は以下の通りです。
● 低血糖
● アミノ酸やその他の代謝障害
● 凝固因子の低下
● 若年性肝臓がん
● 肝不全
● 肝腫大
● アミノ酸尿
● 糖尿
● 代謝性アシドーシス
など
急性型では生後数週で肝腫大をはじめ、発育不良、下痢、嘔吐、黄疸などの症状がみられます。治療をしなければ生後2~3か月で亡くなってしまうため、早期発見と早期治療が大切な病気です。
アミノ酸代謝異常症の検査には、新生児マススクリーニング検査(タンデムマス検査)があります。とても有用な検査で、赤ちゃんのかかとから血液を採取してさまざまな病気を発見します。
ただし、あくまで特定の病気の可能性がある赤ちゃんを拾い上げる検査のため、「陽性」が出ても病気があると決まったわけではありません。確定のためには遺伝子検査などの確定診断が必要です。
アミン酸代謝異常症は複数の病気がありますが、いずれも基本的な治療の考え方は同じです。
まずは十分に代謝することができないアミノ酸の摂取量を制限します。例えば乳児期では、タンパク質を除去して特定のアミノ酸を加えた「治療用除去ミルク」を与えます。しかし、制限するアミノ酸は必須アミノ酸であるため、本来体にとっては必要な栄養素です。そのため、残された酵素機能に応じて通常の母乳やミルクも併用します。
離乳食が始まってからは、食品の特定のアミノ酸だけを取り除くことはできません。よって、アミノ酸の摂取量を制限しながら食事管理を行います。
アミノ酸代謝異常症は、アミノ酸の代謝に関わる酵素の異常が原因で、毒性物質が蓄積したり、必要なアミノ酸が欠乏したりすることによって起こる病気の総称です。軽症例では発症に気づかないこともありますが、重症例では危険な状態になったり、発達に影響したりしますので、新生児マススクリーニング検査を受けましょう。
監修医:国立研究開発法人 国立成育医療センター 総合診療部 統括部長 窪田満 先生
参考文献
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https://jsimd.net/documents/GuidelinesInClinicalGenetics/aminosan-taisyaijou.pdf
https://www.nanbyou.or.jp/entry/22375
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4813